重症円形脱毛症の内服治療について

重症円形脱毛症の内服治療

円形脱毛症では、一般的に、頭皮の脱毛面積が大きいほど、重症度が高いとされます。そして、頭皮全体に対する脱毛面積が50%以上に及ぶ場合を重症と定義する報告があります1)。このような重症例では、治療が難航し、長い間新しい毛髪が生えてこない状況が続く場合もあります。

頭部全体に対して50%以上の脱毛があり、過去6か月程度発毛が認められない重症円形脱毛症に対する内服治療薬として、2022年6月にオルミエント® (一般名:バリシチニブ)が、2023年6月にリットフーロ®カプセル (一般名:リトレシチニブトシル酸塩カプセル)が承認されました。いずれの内服薬もJAK阻害薬と呼ばれます。
1) King BA, et al.: J Am Acad Dermatol. 2022; 86: 359-364.

重症円形脱毛症に対するJAK阻害薬の作用について

円形脱毛症では、リンパ球(詳しくはCD8陽性NKG2D陽性Tリンパ球)が分泌するIFN-γ(インターフェロン・ガンマ)が、毛包細胞に作用し、毛包細胞からのIL-15という物質の分泌を促し、さらにIL-15によりリンパ球の活動性が高まり、毛根への細胞障害を引き起こすという、サイトカインループという状態により、脱毛が持続、増悪する(図1)と考えられています2)。

オルミエント®は毛包細胞がIFN-γによる指令によりIL-15を産生するのを介助するJAK1, JAK2という物質の働きを阻害することにより、また、リットフーロ®カプセルはリンパ球がIL-15の作用によりIFN-γを産生するのを介助するJAK3, TECという物質の働きを阻害することにより、脱毛の持続、増悪に対し治療効果をもたらします(図2)。
2) Fukuyama M, et al.: J Dermatol. 2022: 49: 19-36.
図1. IL-15の産生とIFN-γの産生がループ状に繰り返され(サイトカインループ)、毛の細胞をリンパ球が攻撃することにより、脱毛症状が増悪、維持されます。図は簡略化したイメージ図です。
図2. オルミエント®はJAK1/JAK2を、リットフーロ®カプセルはJAK3とTEC(TECは図には示されていません)を阻害することにより、無限ループを断ち切り、重症円形脱毛症への治療効果を発揮します。

経口JAK阻害薬による治療が検討される患者さん

頭部全体に対して50%以上の脱毛面積があり、過去6か月程度、発毛が認められない円形脱毛症をお持ちの患者さんに対して経口JAK阻害薬による治療が検討されます。

オルミエント® (一般名:バリシチニブ)は15歳以上の患者さんで上記を満たす場合に内服による治療が検討されます。

リットフーロ®カプセル (一般名:リトレシチニブトシル酸塩カプセル)は12歳以上の患者さんで上記を満たす場合に内服による治療が検討されます。

重症円形脱毛症に対する経口JAK阻害薬の効果について

重症円形脱毛症への経口JAK阻害薬による治療効果につきましては、日本を含む世界主要施設で行われた臨床試験の結果が報告されています。

オルミエント(バリシチニブ)では、 BRAVE-AA2という臨床試験で、18歳以上、脱毛面積50%以上、罹病期間6か月から8年までの重症円形脱毛症患者546例を対象に①オルミエント4mg内服群、②オルミエント2mg内服群、③プラセボ(オルミエントなし)群での投与36週での結果を比較したところ、頭皮にたいする脱毛面積が20%以下まで改善した割合は、それぞれ32.5%、17.3%、2.6%と、プラセボに比べて優位に脱毛の改善が認められたと報告されています3)。

リットフーロカプセル(リトレシチニブトシル塩酸塩)では、ALLEGRO-2b/3という臨床試験で、12歳以上、脱毛面積50%以上、罹病期間10年までの重症円形脱毛症患者718人を対象に①リットフーロカプセル50mg、②プラセボ(リットフーロなし)で、投与24週での頭皮に対する脱毛面積が20%以下まで改善した割合は、リットフーロ群23.4%, プラセボ群1.5%と、プラセボに比べて優位に脱毛の改善が認められたと報告されています4)。
3) King B, et al.: N Engl J Med. 2022: 386: 1687-1699.
4) King B, et al.: Lancet. 2023: 481: 1518-1529.

重症円形脱毛症に対する経口JAK阻害薬導入について

経口JAK阻害薬の導入には胸部X線撮影や胸部CT撮影、ウイルス性肝炎を調べる血液検査などが必要となります。胸部X線撮影や胸部CT検査は別途、提携している他院で行っていただく必要があります。

経口JAK阻害薬の薬剤費の目安

オルミエント4mg錠 28日分
オルミエント2mg錠 28日分
リットフーロ50mg錠 28日分
薬剤費用
147,700円
75,768円
162,467円
3割負担での窓口負担額
44,310円
22,730円
48,740円
注)リットフーロカプセルにつきましては、当面は2週間おきの処方となります。